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*)ガウスの発散定理

最終更新日時: 2025年08月25日 12:57

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ガウスの発散定理:証明と応用

ガウスの発散定理(Divergence Theorem)はベクトル場の発散と面積分の関係を示す定理である。三次元空間において閉曲面 SS で囲まれた領域 VV に対し、十分滑らかなベクトル場 F\vec{F} について以下が成立する:

SFndS=VFdV\int_S \vec{F} \cdot \vec{n} \, dS = \int_V \nabla \cdot \vec{F} \, dV

ここで:

  • F\vec{F}:ベクトル場
  • SS:閉曲面
  • VVSS で囲まれた体積
  • n\vec{n}SS 上の各点における外向き単位法線ベクトル
  • F\nabla \cdot \vec{F}:ベクトル場 F\vec{F} の発散

ガウスの発散定理の証明にはいくつかのアプローチがあるが、ここでは直接的な証明を示す。

ベクトル場 F\vec{F} を直交座標成分で表現する:

F=Fxi+Fyj+Fzk\vec{F} = F_x \vec{i} + F_y \vec{j} + F_z \vec{k}

発散は以下のように定義される:

F=Fxx+Fyy+Fzz\nabla \cdot \vec{F} = \frac{\partial F_x}{\partial x} + \frac{\partial F_y}{\partial y} + \frac{\partial F_z}{\partial z}

まず xx 成分のみについて考える。立方体 VV を考え、xx 方向に [a,b][a, b] の範囲をとる場合:

VFxxdV=y1y2z1z2abFxxdxdydz\int_V \frac{\partial F_x}{\partial x} \, dV = \int_{y_1}^{y_2} \int_{z_1}^{z_2} \int_a^b \frac{\partial F_x}{\partial x} \, dx \, dy \, dz

内側の積分を計算:

abFxxdx=Fx(b,y,z)Fx(a,y,z)\int_a^b \frac{\partial F_x}{\partial x} \, dx = F_x(b,y,z) - F_x(a,y,z)

よって:

VFxxdV=y1y2z1z2[Fx(b,y,z)Fx(a,y,z)]dydz\int_V \frac{\partial F_x}{\partial x} \, dV = \int_{y_1}^{y_2} \int_{z_1}^{z_2} [F_x(b,y,z) - F_x(a,y,z)] \, dy \, dz

次に、閉曲面 SS 上での xx 成分の面積分を考える:

SFxindS=SbFxindS+SaFxindS+S残りFxindS\int_S F_x \vec{i} \cdot \vec{n} \, dS = \int_{S_b} F_x \vec{i} \cdot \vec{n} \, dS + \int_{S_a} F_x \vec{i} \cdot \vec{n} \, dS + \int_{S_{残り}} F_x \vec{i} \cdot \vec{n} \, dS

ここで:

  • SbS_bx=bx=b の面
  • SaS_ax=ax=a の面
  • S残りS_{残り} はそれ以外の面

x=bx=b の面上では n=i\vec{n} = \vec{i} であり、x=ax=a の面上では n=i\vec{n} = -\vec{i} である。また、S残りS_{残り} 上では in=0\vec{i} \cdot \vec{n} = 0 となる。よって:

SFxindS=y1y2z1z2Fx(b,y,z)dydzy1y2z1z2Fx(a,y,z)dydz\int_S F_x \vec{i} \cdot \vec{n} \, dS = \int_{y_1}^{y_2} \int_{z_1}^{z_2} F_x(b,y,z) \, dy \, dz - \int_{y_1}^{y_2} \int_{z_1}^{z_2} F_x(a,y,z) \, dy \, dz

これは体積積分 VFxxdV\int_V \frac{\partial F_x}{\partial x} \, dV と等しい。

同様に、yy 成分と zz 成分についても証明できる。三つの成分を合わせると:

SFndS=VFdV\int_S \vec{F} \cdot \vec{n} \, dS = \int_V \nabla \cdot \vec{F} \, dV

となり、ガウスの発散定理が証明される。

複雑な形状の領域は小さな立方体に分割して考え、分割した各立方体で上記の証明を適用し、それらを合計することで一般的な領域でも発散定理が成立することを示せる。

ガウスの発散定理は物理的に直観的な意味を持つ:

  • 発散 F\nabla \cdot \vec{F} は、ベクトル場の「湧き出し率」または「湧き出しの強さ」を表す
  • 閉曲面を通過するベクトル場の正味の流れ(フラックス)は、その内部での湧き出しの総量に等しい

例えば、流体力学では:

  • F\vec{F} が流速ベクトル場の場合、F>0\nabla \cdot \vec{F} > 0 の領域は流体の湧き出し(源泉)
  • F<0\nabla \cdot \vec{F} < 0 の領域は流体の吸い込み(シンク)
  • 非圧縮性流体では F=0\nabla \cdot \vec{F} = 0 となり、閉曲面を通過する流体の正味の量はゼロ

別の見方をすると、発散定理は「局所的な情報(点での発散)」と「大域的な情報(面を通過する全フラックス)」を結びつける定理といえる。

電場 E\vec{E} とその発散は、電荷密度 ρe\rho_e と関連づけられる:

E=ρeε0\nabla \cdot \vec{E} = \frac{\rho_e}{\varepsilon_0}

ここで ε0\varepsilon_0 は真空の誘電率である。発散定理を適用すると:

SEndS=VEdV=1ε0VρedV=Qε0\int_S \vec{E} \cdot \vec{n} \, dS = \int_V \nabla \cdot \vec{E} \, dV = \frac{1}{\varepsilon_0} \int_V \rho_e \, dV = \frac{Q}{\varepsilon_0}

これは閉曲面 SS を通過する電束が、内部の全電荷 QQ に比例することを示すガウスの法則である。この法則は電磁気学の基本法則の一つであり、対称性のある電場問題の解法に利用される。

ニュートンの重力法則も同様の形式で表現できる。重力ポテンシャル Φ\Phi の勾配が重力場 g\vec{g} であり:

g=Φ\vec{g} = -\nabla \Phi

質量密度 ρm\rho_m との関係はポアソン方程式で与えられる:

g=2Φ=4πGρm\nabla \cdot \vec{g} = -\nabla^2 \Phi = 4\pi G \rho_m

発散定理を適用すると:

SgndS=VgdV=4πGVρmdV=4πGM\int_S \vec{g} \cdot \vec{n} \, dS = \int_V \nabla \cdot \vec{g} \, dV = 4\pi G \int_V \rho_m \, dV = 4\pi G M

これは閉曲面を通過する重力場のフラックスが内部の全質量 MM に比例することを示す。

熱流束ベクトル q\vec{q} と温度 TT の関係はフーリエの法則で与えられる:

q=kT\vec{q} = -k \nabla T

ここで kk は熱伝導率である。発散定理を熱流束に適用すると:

SqndS=VqdV\int_S \vec{q} \cdot \vec{n} \, dS = \int_V \nabla \cdot \vec{q} \, dV

定常状態では、熱源や吸熱がなければ q=0\nabla \cdot \vec{q} = 0 となり、閉曲面を通過する正味の熱流はゼロとなる。これは熱の保存則を表す。

  • 発散(Divergence): ベクトル場の「湧き出し率」を表す微分演算子
  • フラックス(Flux): ベクトル場が単位面積当たりに単位時間で通過する量
  • 閉曲面(Closed Surface): 内部と外部を分離する境界となる曲面
  • ベクトル場(Vector Field): 空間の各点にベクトルを対応させる関数
  • ガウスの法則(Gauss’s Law): 電磁気学における電場と電荷の関係を示す法則
  • ポアソン方程式(Poisson’s Equation): 物理学で現れる偏微分方程式の一種
  • Apostol, T. M. (1969). Calculus, Volume II: Multi-Variable Calculus and Linear Algebra with Applications to Differential Equations and Probability.
  • Griffiths, D. J. (2017). Introduction to Electrodynamics.
  • Jackson, J. D. (1998). Classical Electrodynamics.
  • Schey, H. M. (2005). Div, Grad, Curl, and All That: An Informal Text on Vector Calculus.
  • Stewart, J. (2015). Calculus: Early Transcendentals.